Challenging People挑戦する人たち

第3回/山上 智輝(先行試作課)
・佐野 光太郎(組付課)

大変だからこそ、面白い。

矢作産業が挑戦を続ける全日本ラリー。
華やかなレースの裏側でマシンを整備し、ドライバーを送り出しているのが、YAHAGI Racing Teamのエンジニアスタッフです。
今回話を聞いたのは、組付課の佐野光太郎さんと、先行試作課の山上智輝さん。
ラリーに関わるきっかけも、最初の思いもそれぞれ違う二人ですが、話を聞いていると共通して出てくる言葉があります。
「しんどいです(笑)」
そして、そのあとに続くのが、
「でも、やりがいがある。面白い」
という言葉でした。

 

「ラリーって何?」から始まった

佐野:
僕の場合は、村瀬マネージャーから「やってみないか」と声をかけてもらったのがきっかけです。
自分から希望したというより、「じゃあ、やってみます」という感じで始まりました。
正直、最初はラリーに全然興味がなくて、「ラリーって何?」というところからです(笑)。
最初の1戦は、本当に何も分からないまま整備をしていました。
言われた通りに作業しながら、「今これ、何のためにやっているんだろう?」と思うこともありました。
それが2戦、3戦と経験するうちに、少しずつつながってきたんです。
「ああ、これがラリーなんだ」と分かってくると、だんだん面白くなってきました。

 

2024年、まずは「体験」から

山上:
僕が最初に参加したのは2024年です。
「ラリーのメカニックを体験できる機会があるけど、どう?」と声をかけてもらって、自分から参加しました。
僕を含めて2人でのスタートです。
最初は本当に体験という感覚でした。
ラリーカーの整備も初めてなので、他のラリーチームから学ぶところから始まりました。
実際の作業を見ながら、
「このパーツはこうやって外すんだ」
と、一つひとつ覚えていきました。
とにかくミスをしないこと。
速く作業することより、まず確実にやることを意識していました。
当時は「すごく貴重な経験をさせてもらったな」という気持ちでしたね。
そこから話が大きく動いたのが2025年です。
矢作産業として本格的にラリーに取り組むことが決まり、全日本チャンピオンの新井選手のマシンを自分たちが担当することになりました。
その話を聞いた時は、
「僕たちがやるの? 無理でしょ」
と思いました(笑)。
でも、プロのメカニックにサポートしてもらいながら、一戦ずつ経験を積んできました。

 

レースは、スタートするずっと前から始まっている

山上:
実際にやってみると、ラリーの大変さは整備だけじゃないんです。
現地では、まず自分たちで必要なものを準備して、サービスの場所をつくります。
クルマだけを見ていればいいわけでもなくて、工具、部品、タイヤなど、いろいろなものを管理します。
終われば撤収もある。
次のレースに向けた準備もあるので、通常の仕事とラリー活動をどう両立していくかも考えながら進めています。
忘れ物一つでも現地では困るので、積み込みも大事です。
僕自身、大きな作業ミスは今のところないんですが、細かい忘れ物や積み忘れはありました(笑)。
そういう経験をするたびに、「次はここまで確認しよう」と準備の仕方も変わっていきます。

 

ラリーでは「予定外」が当たり前

山上:
工場の仕事なら、その日の予定を立てて、ある程度先を読みながら作業できます。
ラリーは状況がどんどん変わります。
天気が変わる。路面も変わる。
そしてマシンが、どんな状態で戻ってくるかも分からない。
悪路の中スピードを出して走るので、どこかが壊れて戻ってくることもあります。
雨に濡れながら傷んだマシンを修復して、次に走れる状態まで戻す。そんな場面も実際に経験しました。
そこで「予定していた作業と違うから」と止まることはできない。
戻ってきたクルマを見て、何を優先するのかを判断して、チームで動く。
常に先のことまで考えておく必要があります。
その繰り返しで、優先順位をつけてすぐ行動する力は、かなり鍛えられたと思います。

 

一つの失敗が、レースの結果を変える

佐野さんには、今も強く記憶に残っている出来事があります。

佐野:
北海道のラリーで、バッテリーを切り忘れたことがありました。
翌日が本戦だったんですが、バッテリーを上げてしまったんです。
走ること自体はできたものの、エンジンをかけ続ける必要が出てきました。
そうするとエンジンルームが熱くなって、作業もしづらくなる。
そのタイミングでエンジンルーム内のポンプが抜けてしまって、結果的に走れなくなり、リタイアにつながりました。
自分の一つのミスが、レース全体に影響する。
あの経験は大きかったですね。
ラリーでは、整備したクルマにドライバーが乗ります。
だから、一つひとつの作業に責任を持つ。
失敗も経験として次につなげて、同じことを起こさないように考える。
そういう意識は、ラリーに関わるようになって強くなりました。

 

仕事への向き合い方が、大きく変わった

佐野:
僕自身、一番変わったのは仕事に対する姿勢です。
以前は、言われた作業をやることが中心でした。
ラリーでは、自分から考えて動くことを常に求められます。
次に何が必要になるのか。
今、自分が何をやるべきなのか。
周りを見ながら考えて動く。
それが自分にはすごく合っていたんだと思います。
やっているうちに仕事そのものが面白くなって、やりがいも感じるようになりました。
仕事へのモチベーションは、以前と比べてかなり上がりましたね。
そして今は、自分の中に大きな目標もできました。
いつか世界のラリーでメカニックをやりたい。
「ラリーって何?」というところから始まった自分が、今はそこを目指しています。

 

自分だけでなく、チーム全体が変わってきた

山上:
僕自身も成長したと思いますが、メンバーを見ていても変化を感じます。
ラリーの現場では、自分で考える場面が本当に多いんです。
誰かの指示を待ってから動くより、自分で状況を見て、次に必要なことを考えて動く。
そういう経験を繰り返すことで、みんなの主体性も少しずつ上がってきたと思います。
今はプロのメカニックにもサポートしてもらっています。
そこから、少しずつ自分たちでできることを増やしている段階です。
まず目指したいのは、矢作産業のメンバー自身が考え、整備し、トラブルにも対応できるチームになること。
今はそのための基盤をつくっているところだと思っています。
足りないものを明確にして、1年ごとの目標を決める。
さらに1戦ごとにも目的を持つ。
そうやって、一つずつ確実に力をつけていきたいです。

 

若い人たちにも、この面白さを伝えたい

山上:
自分がラリーに関わるようになって気づいたんですが、他のチームを見ると、メカニックは僕たちより年上の方が多いんです。
若い人たちにも、もっとラリーやモータースポーツに興味を持ってもらえたらいいですよね。
レースというと、どうしてもドライバーが一番目立ちます。
でも、その後ろでは大勢の人が動いています。
クルマを整備する人がいて、準備する人がいて、みんなで一台のマシンを走らせる。
僕たちの活動を見て、
「メカニックって面白そう」
「自分もやってみたい」
と思ってくれる人が出てきたらうれしいです。
実際に興味を持ってくれる人も出てきています。
これからメンバーを育てていくためにも、まずは今いる僕たちがもっと力をつけること。
自分たちが教えられるところまで成長して、そこで得た経験や技術を次の世代につないでいきたいと思っています。

 

大変だからこそ、面白い。

準備をして、マシンを送り出す。
戻ってきたマシンにトラブルがあれば、その場で考えて対応する。
思うような結果が出る時もあれば、失敗する時もある。
通常の仕事とラリー活動を両立しながら、次の一戦に向けた準備も続いていきます。
二人とも「しんどい」と笑います。
それでも続けている理由は、とてもシンプルです。

山上:
やりがいはすごくあります。
やっぱり勝てばうれしいですし、みんなで一つの目標に向かって取り組んで、それを達成できた時は楽しいですね。
これからも1戦1戦、ちゃんと目的を持って取り組んでいきたいです。
自分たちも成長して、この活動を会社にとってもっと良いものにしていきたいと思っています。

佐野:
僕は、世界レベルのメカニックを目指して頑張ります。
最初は何も分からなかったラリーが、今では自分の大きな目標になりました。
大変なことも、失敗することもあります。
でも、それを乗り越えて結果につながった時は、やっぱりうれしい。
大変だからこそ、面白い。
今は本当に、そう思っています。

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